トラックの安全性を高めるには?世界の事故事例とその対策を紹介

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トラックの安全性は、世界中で物流が拡大する中、重大な社会課題となっています。特に、大型トラックが関与する事故は被害が甚大であり、各国での早急な安全対策が欠かせません。  

本記事では、世界各国のトラック事故の事例を紹介し、それぞれの背景や原因を解説します。また、各国が取り組む安全対策や技術革新についても紹介します。 

 

世界各国のトラック事故の現状と特徴 

 

世界各国でトラック事故は深刻な問題となっており、それぞれの地域に特有の背景があります。事故発生の要因は、道路インフラの整備状況、法制度のほか、運転者の技能や労働環境など複数が絡み合っており、ひとつには絞り込めません。まずは、世界の交通事故の現状と、各国の事故防止の取り組みについて解説します。 

 

アメリカ  

連邦自動車運送安全局(FMCSA)の統計によると、アメリカでは2021年に人口100万人あたり15.51件の大型トラックによる死亡事故が発生し、これは2010年の10.6件から46%も増加しています。 

2020年から2021年にかけては、大型トラックによる死亡事故の件数は4,821台から5,700台へと18%増加しました。また、負傷を伴う事故に巻き込まれた大型トラックの数も、10万5,000台から11万7,000台へと11%増加しました。事故の内訳は、単独事故が21%、複数車両の事故が79%となっています。 

さらに、大型トラックが関与する死亡事故の特徴として、地方部や長距離幹線道路上で多く発生している点が挙げられます。大型トラックが関与する死亡事故全体の約54%は地方で発生し、26%は州間高速道路で発生しました。 

 

日本 

日本のトラック事故は減少傾向にあるものの、依然として課題があります。公益社団法人全日本トラック協会の統計によると、2024年の事業用トラックが第一当事者となる死亡事故は200件で、前年より1件増加しました。大型トラックによる事故が全体の約55%を占め、中型トラックが約41%、小型トラックが約3%となっています。 

特に注目すべき点として、死亡・重傷事故の約35%が追突事故であり、交差点における対歩行者、対自転車の事故も多く発生しています。高速道路での追突事故と一般道での右左折時の事故が大きな課題となっています。 

 

ブラジル 

ブラジルでは、広大な国土を支える物流の要となるトラックの事故が多く、悪路が多いことが大きな要因となっています。 

2024年5月にはサンパウロ州ジュンディアイで、染料を輸送中のトラックが街灯に衝突し、積んでいた青色染料が流出する事故が発生しました。染料はマンホールから地下を伝い、公園の池に流れ込み、水鳥やカピバラなど、多くの動物が青く染まる環境被害も引き起こしました。 

また、2025年5月にはミナス・ジェライス州テオフィロオトニの高速道路でトラックとバスが衝突し、30人以上が死亡する事故も発生しています。 

 

アフリカ 

アフリカでは、トラック事故が深刻な社会問題となっています。ケニアでは2023年に、可燃物を積んだ大型トラックが車列に突っ込み爆発する事故が発生し、39人以上が死亡する惨事となりました。2024年にもケニア西部で、トレーラートラックが自動車とバイクなどに突っ込み、51人以上が死亡する交通事故が発生しています。 

ナイジェリアでは、燃料輸送車の爆発事故が度々発生しており、2024年には燃料を積んだタンクローリーの爆発で、140人以上が死亡する大事故が起きました。また、燃料価格の高騰により、事故で流出した燃料を回収しようとする住民が、爆発に巻き込まれて被害に遭うケースが度々起きています。 

  

インド 

インドでは、無謀な運転、道路の整備不良、車両の老朽化により、致命的な交通事故が多発しています。2024年には、バスがコンテナトラックに衝突し、少なくとも12人が死亡する事故も発生しました。交通ルールの遵守意識の低さや、過積載の問題も深刻です。 

 

インドネシア 

インドネシアでは、特に幹線道路での事故の多さが問題となっています。2024年初頭には、東カリマンタン州バリクパパン県の交差点で、信号待ちをしていた車などの列に後続の大型トラックが猛スピードで追突し、36人が死傷する事故が発生しました。 

 

中国 

中国では、急速な経済発展により道路網と物流量が急増していますが、安全対策がそれに追いついていない状況です。特に近年、ダンプカーやトラックが荷台を上げたまま走行して高圧線に接触する事故が相次いで発生し、多くの死傷者が出ています。 

 

 トラックの構造的特性と事故リスク 

 

トラックは、乗用車とは異なる構造と特性を持ち、それが事故リスクに大きく影響しています。トラックの構造的特性を理解し、それに応じた運転技術と安全対策が必要です。 

 

大型トラックの安全性については、下記の記事をご覧ください。 

 

トラックの特性が生む見落としの危険性  

トラックは車高が高く、車長が長いという特性があり、これらはさまざまな事故リスクにつながっています。車高の高さは、看板や橋桁といった構造物への接触・衝突事故を発生させる要因のひとつです。また、長い車長は、カーブでの内輪差が大きくなるため、曲がり角での巻き込み事故につながる可能性が高まります。 

さらに、トラックには多くの死角があります。特に、キャブの前方下部、側方下部、後方には大きな死角が存在し、歩行者や自転車などの存在が見落とされがちです。 

国土交通省の資料によると、交差点での右左折時に歩行者や自転車との接触事故が多発している要因のひとつとして、この死角の存在が指摘されています。 

 

積載の状態が事故リスクに直結 

トラックは積載物の重さによって、運転特性が大きく変わります。重い荷物を積んでいる場合は、制動距離が長くなるため、急ブレーキをかけてもすぐには停まれません。積荷の重心位置によっては車両の安定性が損なわれ、カーブでの横転リスクが高まることもあります。 

また、荷崩れのリスクも見逃せません。不適切な積載や固定が不十分な場合、急ブレーキや急カーブで荷物が崩れて車両のバランスを崩したり、最悪の場合は荷物が道路上に落下したりして、ほかの車両を巻き込む二次事故を引き起こす可能性もあります。 

 

世界各国のトラック事故防止策と現状 

トラック事故の防止に向けて、世界各国でさまざまな対策が講じられてきました。技術的な安全装置の義務化、運転手の教育、法規制の整備など、多岐にわたる取り組みが進められています。 

 

アメリカ 

アメリカでは、2018年から貨物輸送のトラックに電子ログ記録装置(ELD)の搭載が義務化されました。これにより、運転時間の管理が厳格化され、過労運転の防止につながっています。また、大型トラックやバスへの滑り防止装置(ESC)の搭載も義務化されています。 

 

日本 

日本では、公益社団法人全日本トラック協会が運営する安全性優良事業所認定制度(通称Gマーク制度)が重要な役割を果たしています。この制度は、トラック運送事業者の交通安全対策などへの取り組みを評価し、一定の基準をクリアした事業所を「安全性優良事業所」として認定するものです。 

Gマーク認定事業所の事故割合は未取得事業所に比べて半分以下とされており、安全性の高い運送事業者を選別する指標として機能しています。 

2024年3月末現在、全国で約18,000事業所がGマークに認定されており、全事業用トラックの約36%が走行しています。 

 

中国 

中国では、積載量12t以上の大型トラックやトラクターに対して、北斗衛星導航系統の搭載が義務付けられています。これは、リアルタイム車両追跡、運転手の労働管理、危険区域警告、緊急対応など、多面的な管理ができる仕組みです。また、これらの車両は、政府が運用する道路輸送車両用衛星測位システムプラットフォームへの常時接続も義務付けられています。 

 

ヨーロッパ 

ヨーロッパでは従来、乗用車のみが対象だった新車アセスメント協会(Euro NCAP)による安全性評価が、2024年に初めて大型トラックにも拡大されました。 

TRUCK SAFEプログラムと呼ばれるこの新しい安全評価制度は、大型トラックの安全性能を客観的に測定し、道路管理当局や運送業者、ドライバー、保険会社などに、安全性の高いトラック選びの指標を提供するものです。 

 

トラック事故を防ぐには、包括的な安全対策が必要 

 トラック事故を防ぐには、運転技術だけでなく、車両構造やインフラ、労働環境、制度面からの総合的な対策が不可欠です。各国の事例でも、安全装備の導入や教育、法整備を組み合わせた取り組みが事故の抑制につながっています。 

物流の安全性は、暮らしの安心と経済の安定を支える基盤です。UD Trucksは、地域社会の一員として、安全・安心な物流の実現に向けた責任を果たすべく、車両技術の革新や人材育成、安全文化の向上に継続的に取り組んでいます。今後も、社会に信頼される輸送の在り方を追求し、持続可能な未来を支えていきます。