世界のトラック排ガス規制は?Euro基準と各国の現状を解説

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世界各国で、トラックに対する排ガス規制が年々強化されています。「自分の国や地域の規制はどうなっているのか」「これからどのようなトラックを選べばいいのだろうか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

トラックの排ガス規制は、環境問題への対応はもちろん、国際的な物流コスト、車両の資産価値のほか、企業の競争力にも直結する重要な要素です。

この記事では、世界的な標準となりつつあるEuro基準を軸に、排ガス規制に対する世界的な動きについて解説します。

 

大型車の有害排出物を抑えるためのトラックの排ガス規制

トラックの排ガス規制とは、大気汚染の原因となる有害物質の排出を抑えるため、ディーゼル車などの大型商用車に対して定められた環境基準のことです。これには、健康被害や環境問題を引き起こす、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)といった物質が含まれます。

トラックの排ガス規制の目的は、主に2つあります。ひとつは、都市部や産業地域で深刻化する大気汚染の軽減。もうひとつは、地球温暖化の防止に向けたCO2(二酸化炭素)の排出削減です。排ガス規制により人々の健康を守りつつ、持続可能な交通と経済の両立を目指しています。

 

排ガス規制の世界標準といえるEuro基準

Euro基準は、欧州連合(EU)が定めた自動車関連規制基準で、車両から排出される有害物質の量を制限するための環境規制です。世界中の多くの国がこの基準を参考にしているか、あるいは直接採用しています。ここでは、Euro基準の歴史と今後の展望について、詳しく見ていきましょう。

 

Euro 1からEuro 6までの段階的な規制強化の歴史

Euro基準、大気汚染や温室効果ガスの削減を目的としており、環境負荷の高いディーゼルトラックに対しても厳しい基準が設けられています。そのため、世界中の多くの国でこの基準が参考にされており、国際的な物流や車両開発にも大きな影響を与えています。

Euro基準は1992年に始まったEuro 1から、2020年代のEuro 6まで、段階的に強化されてきました。 

 

■Euro基準の歩み

基準

実施年

内容

Euro 1

1992年

ガソリン車への三元触媒の装着義務化のきっかけ。

Euro 2

1996年

CO(一酸化炭素)、HCNOx(炭化水素と窒素酸化物)、PMの規制値を強化

Euro 3

2000年

NOxとHCの分離測定を開始。ディーゼル車のNOx、PM規制を強化。車載式故障診断装置(OBD)の搭載義務化の段階的導入。

Euro 4

2005年

ディーゼル車のPM規制を大幅に強化し、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)装着のきっかけに。ガソリン直噴エンジンも対象。

Euro 5

2008

ディーゼル車のPM規制をさらに強化。DPF装着が一般的になる。粒子数(PN)規制を導入。

Euro 6

2014年

ディーゼル車のNOx規制を大幅に強化。選択触媒還元装置(SCR)システムやNOx吸蔵還元触媒NSR触媒)などの後処理技術が必要となる。ガソリン直噴車のPN規制も強化。実路走行排気(RDE)試験の導入準備。 

 

 

初期の基準では、NOx、PMなどの一部の有害物質に制限がかけられましたが、その後、基準値は数倍~数十倍厳しくなっています。例えば、Euro 1ではディーゼル車のNOx上限が8.0g/kWhだったのに対し、Euro 6ではわずか0.4g/kWhにまで削減されました。 

 

次期規制Euro 7は、Euro 6から何が変わったのか 

 

従来のEuro 6までの基準では、自動車・トラックなど、車種別にそれぞれの排ガス規制が設定されていました。しかし、次期規制のEuro 7では、電気自動車(EV)を含むすべての車両を対象に、統一規格による基準を採用しています。 

 

Euro 7で加わったEuro基準の環境規制>

・広範囲の運転条件での試験:45の気温下や短距離移動なども試験対象に

・新たな物質の規制:N2O(一酸化二窒素)など、従来は規制されていなかった物質も対象に

・長期適合期間:排出性能の維持が20万km、および新車登録から10年間(Euro 6の2倍)に

・排気管以外の排出物も規制:ブレーキやタイヤからのマイクロプラスチック排出も規制対象に 

 

また、Euro 7では電気自動車も対象となり、ブレーキやタイヤ摩耗による排出物、バッテリー耐久性など規制の範囲が拡大されます。メーカーにとっては新たな技術開発が求められる一方、使用者側も規制対応車両の導入計画を早期に立てる必要が出てきました。 

 

当初、Euro 7は2025年の導入開始が予定されていましたが、自動車メーカーやEU内の一部の国からの反発により、自動車・バンは2027年以降、バス、トラックについては2029年以降に延期される見込みとなっています。 

 

地域別・世界のトラック排ガス規制の現状と事例 

 

Euro基準以外にも、アメリカの環境保護庁(USEPA)が定める排ガス基準や中国の「国6b」など、各国で排ガス規制は広まりつつありますが、その対応状況は大きく異なります。ここでは、8つの地域を取り上げ、それぞれの排ガス規制の現状と背景のほか、稼働性に与える影響を解説します。 

 

南米

南米諸国では、EUの排ガス規制を参考にした政策が進められており、特にコロンビアやブラジルではEuro 6がすでに導入されています。

コロンビアでは、2023年以降に製造または輸入される新車に対し、Euro 6基準を満たすことを義務付けました。また、2035年以降は、市場に流通するすべての車両(既存車を含む)がEuro 6基準を遵守する必要があります。さらに、ディーゼル燃料の硫黄含有量を、2025年までに10ppm以下とする目標も設定されています

ブラジルでは、大型車(トラックやバス)に対して、欧州のEuro 6に相当するPROCONVE P8が、2023年1月1日から施行されました。これにより、大型車からのNOxやPMの排出量が大幅に削減されることが求められています。 

 

一部の国では、Euro 4やEuro 5レベルの規制が適用されているケースもありますが、将来的にはさらに厳格化される見込みです 

 

日本

日本は独自の排ガス規制を設けており、2009年から「平成21年規制(ポスト新長期規制)」が実施され、その後「平成28年規制」へと移行しました。この規制は、Euro 6相当の厳しさとなります。

また、日本では排ガス規制に加えて、燃費性能に関する規制も段階的に強化されています。中でも注目されているのが、2025年度から適用される燃費基準である「新燃費基準」です。トラックについては、2015年度の燃費基準と比較して約13.4%の基準強化、バスについては約14.3%の基準強化が行われます。 

 

中国

中国は、大気汚染の深刻化に対応し、自動車産業の構造転換を加速させるため、世界でも特に厳しい排ガス規制国6基準を導入しました。2023年7月には、実走行時の排出ガス(RDE)を厳しく管理する国6bが全国で全面施行され、これは欧州のEuro 6基準を一部上回る内容となっています。この新基準に適合しない車両の生産・輸入・販売は原則として禁止され、大気環境の質の向上が図られています。

中国政府は、大気汚染対策とエネルギー安全保障の観点から、新エネルギー車(NEV)の普及を国家戦略として推進してきました。2009年以降、NEV産業への補助金や税制優遇措置を導入し、2022年までに約1,730億ドルの支援をしています。また、主要都市では従来型車両の登録制限や走行規制を実施し、NEVの導入を促進しています。 

 

インド

インドでは深刻な大気汚染対策として、2020年4月から欧州のEuro 6に相当するBS6排出ガス基準を全国で施行し、NOxなどの排出上限を大幅に厳格化しました。政府はさらに厳しいBS7基準の導入や、先進運転支援システム(ADAS)の搭載義務化も計画しています。 

また、都市部では圧縮天然ガス車(CNG車)への転換が進められていますが、地方における供給インフラの整備が課題となっています。 

 

タイ

タイではPM2.5などによる深刻な大気汚染問題に対応するため、2024年1月1日から新車に対し、欧州のEuro 5排ガス基準を施行しました。この基準は、ガソリン車およびディーゼル車のほか、特にタイ国内で人気の高いピックアップトラックも対象としています。 

この規制強化により、ピックアップトラックの車両価格は、1台あたり15,000~20,000バーツ程度上昇する可能性が指摘されるなど、市場への影響も注視されており、環境改善に向けた重要な一歩と位置付けられています。 

 

アメリカ

USEPAは、大型車両の排ガス規制を強化するため、2022年12月にNOx排出基準を、2024年3月には温室効果ガス(GHG)排出基準「フェーズ3」を発表しました。これらの規制は、2027年以降の新型車に適用され、NOx排出量の大幅削減と、GHG排出量の段階的削減を目指しています。また、USEPAはこれらの措置により2055年までに累計で約10億tのGHG排出削減を計画しています。 

 

中東 

Euro 4基準が義務化された2010年代半ば以降からGCC諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バーレーン、オマーン)では車両の排ガス規制を強化する動きを取り入れてきました。

現代の車両排出規制を満たすには、低硫黄燃料が不可欠であり、GCC諸国はこの要件に対応した燃料生産に注力しています。 

 

アフリカ諸国

2020年2月、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、よりクリーンな燃料と車両に関する地域的な基準(燃費基準や排出ガス基準などを含む)を採択しました。これは、急増する中古車輸入に伴う大気汚染の悪化や、温室効果ガス排出量の増加に対応するための動きです。

 

世界中で排ガス規制が強化され、特にEuro 7など次世代の厳格な規制が控えていることから、車両メーカーや物流企業は対応を迫られています。単なる排ガス削減にとどまらない包括的な戦略は、欠かすことができないでしょう。具体的には、CO2排出削減やカーボンニュートラル達成に向けた規制が本格化しており、商用車分野でも電動化や水素化への転換が加速しています。

ここでは、世界的な動向に対応するために活用されている主な車両技術や、インフラ・政策での取り組みについて詳しくご紹介します。 

 

トラックの排ガス規制に対応する先進技術

排ガス規制の強化に対応するため、自動車メーカーはさまざまな先進的車両技術を開発・導入しています。特に大型トラックの分野では、稼働性を損なうことなく、規制をクリアする技術が必要です。

ディーゼルエンジンにおける排出ガス対策の基本は、高効率化を図ること。そのために、DPFSCR、排気再循環(EGR)といった後処理技術が組み合わされ、NOxやPM排出が大幅に削減されています。

これらの技術は、現在のEuro 6をはじめとする各国の規制に対応しており、さらに厳しくなるとされるEuro 7への適応に向けて、今後も改良が進められる見通しです。 

 

排ガス規制を支えるインフラと政策

各国で低硫黄燃料の供給が義務付けられ、そのための製油・流通インフラ整備が進められています。排ガス規制の実効性を高めるには、技術開発に加え、低燃料硫黄の供給体制の整備、厳格な車両検査、購入・利用支援策、都市部でのゼロエミッションゾーン(ZEZ)の導入、そして国際的な中古車流通管理といった包括的なインフラ・政策整備が不可欠です。

これらは各国で進められており、環境負荷低減と持続可能な交通システムの実現を目指しています。 

 

排ガス規制のグローバル化がもたらす、トラック輸送の課題 

トラックの排ガス規制は、もはや一部の先進国だけの話ではありません。基準を軸に各国が独自の対策を講じる中で、環境負荷の低減と経済活動の維持を両立させる努力が求められています。 

企業にとっては、単に法規制に対応するだけでなく、CO2削減やカーボンニュートラルといった中長期的な目標を見据えた車両選定と運用戦略が問われる時代です。環境対応はコストではなく、企業価値や競争力の一部として捉えられるようになっています。 

今後、トラック輸送の分野では、技術革新、政策支援、そして持続可能な社会への意識の高まりが交差しながら、大きな転換期を迎えることになるでしょう。