トラックのDPFとは?故障の症状や原因、対処法を解説

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現代のトラック運送において、DPFは環境規制をクリアするために不可欠な装置となっています。DPFの故障は、車両の運行停止や高額な修理費用につながるおそれがあるため、運送事業者にとって重要な課題です。  

本記事では、DPF故障時の症状や対処法のほか、故障を防ぐための予防策について解説します。また、世界のDPF関連の排ガス規制動向など、運送事業者が知っておくべき知識についても見ていきましょう。 

 

DPFとは 

DPFとはDiesel Particulate Filter(ディーゼル微粒子捕集フィルター)の略で、ディーゼルエンジンの排出ガスに含まれるPM(スス/粒子状物質)を物理的に捕集する装置のことです。地球温暖化対策や都市部の大気汚染防止の一環として、多くの国でDPFの装着が義務化されており、トラックの運行に欠かせない存在となっています。 

まずは、DPFの役割や重要性、メーカーによる名称の違いなどについて見ていきましょう。 

 

DPFの役割と重要性 

DPFは、ディーゼルエンジンの排出ガス中に含まれるPMを捕集し、大気中への排出を抑制する装置です。PMとその付着物であるSOF(可溶性有機成分)や硫酸塩は、肺疾患のリスクを高める環境汚染物質として知られており、その除去には社会的責任もあります。 

近年では、世界各国で環境規制が強化され、新車にはほぼ必須の装備となりました。DPFの装着により、ディーゼル車両が排出するPMの量を大幅に削減でき、環境負荷の軽減と法令遵守の両立が可能となります。 

また、DPFは単なるフィルターではなく、センサーや再生制御機能を備えた高度な排気浄化システムの一部として機能しています。トラック運用の信頼性を支えるためにも、DPFの正しい理解とメンテナンスは不可欠といえるでしょう。 

 

メーカー別の呼称の違い 

DPFの基本構造や浄化原理は共通していますが、装置の名称や再生制御のロジック、警告表示システムには各メーカーで違いがあります。これは、メーカーが独自に設計・開発した排気浄化技術を反映しているためです。 

例えば、DPFを「DPD(Diesel Particulate Diffuser)」と呼び、運転条件に応じて自動・手動で再生できるシステムを搭載しているメーカーがあります。また、「DPR(Diesel Particulate active Reduction system)」という名称で、積極的な再生制御を特徴としているメーカーもあります。 

 

トラックのDPFが故障したらどうする? 

DPFが正常に機能しなくなると、トラックの性能に深刻な影響を及ぼします。特に、警告灯の点灯、黒煙の増加、エンジン出力の低下といった現象は、DPFの故障が進行しているサインです。これらの不具合を放置すれば、最終的には車両の走行自体が不可能になる場合もあります。ここでは、DPFに不具合が生じた際に現れる代表的な症状と、それに対する具体的な対処方法について解説します。 

 

DPFが故障した場合の症状 

DPFが正常に機能していない場合、トラックにはいくつかの警告サインが現れます。 

代表的なものは、インジケーターランプの表示です。初期段階では警告灯が点滅し、手動再生の実施が求められます。これを放置すると点灯へと進行し、強制再生が必要になるのです。さらに悪化すると常時点灯し、その段階になるとエンジンの出力制限や走行不能といった重大なトラブルにつながります。 

排出ガスの異常としては、黒煙や白煙の増加、焦げたような異臭の発生があります。これらは、フィルターにPMが蓄積し、正常な燃焼が行われていないサインです。排気音の変化やアイドリングの不安定化も確認されることがあり、視覚・嗅覚・聴覚を通じて異常に気づくでしょう。ほか、燃費の悪化やエンジンのパワーダウンも、DPFの不具合のひとつです。 

 

DPFが故障した場合の対処法 

DPFの警告灯が点滅または点灯した際には、すみやかな対応が求められます。まず、安全な場所(高速道路のSA・PA、広めの駐車場など)に停車し、エンジンをかけたまま手動再生ボタンを押して再生処理を行います。 

再生処理中は排気温度が非常に高くなるため、可燃物の近くでの作業や駐車は厳禁です。手動再生が完了しない、あるいは警告灯が消えない場合は、すみやかに最寄りの整備工場へ移動しましょう。高速道路上で緊急対応が必要な場合は、非常駐車帯を利用し、JAFや保険会社のロードサービスを利用するのが賢明です。 

また、同じ不具合を繰り返す場合、単に再生処理では解決しないケースも多く、DPF本体や関連センサーに不具合が生じている可能性があります。点検やスキャンツールによる診断を通じて根本的な原因を特定し、必要な修理や部品交換をすることが、長期的なトラブル予防につながります。 

 

トラックのDPFが故障する主な原因 

DPFが故障する背景には、さまざまな要因が存在します。代表的なものは、フィルター内部の目詰まりやシステムの不具合です。それぞれの代表的な原因について詳しく見ていきましょう。 

 

目詰まりによるもの 

 DPF故障の主な原因は、フィルター内部の目詰まりです。PMが蓄積し、排気の流れが阻害されることで、性能が低下します。特に、短距離走行や低負荷運転が多いと排気温度が上がらず、再生処理が不十分になりやすく、PMや金属粉が溜まりやすくなります。進行すれば警告灯の点灯や出力制限、最悪の場合は走行停止に至るため、定期的に洗浄や点検を行うことが重要です。 

 

システムの不具合によるもの 

DPF本体の問題に限らず、その制御を担う周辺システムの不具合もまた、DPF故障の一因となります。排気温度センサーや圧力センサーが正しく作動しないと、DPF内部のPMの蓄積状況を正確に把握できず、再生処理が行われない、あるいは過剰に行われるといった不適切な制御が発生します。このような故障の原因を特定するには、診断機(スキャンツール)を用いた詳細なチェックが不可欠です。 

 

DPFの故障を防ぐための予防策 

 DPFの故障を防ぐためには、日常的な点検と適切なメンテナンス、そして運転習慣の見直しが不可欠です。ここでは、2つの視点からDPFのトラブルを防ぐ予防策を紹介します。 

 

適切なメンテナンス 

 DPFの故障を防ぐには、定期的なメンテナンスが欠かせませんJASO規格に適合したディーゼルエンジンオイルを使うことで、アッシュ(金属製成分の燃えカス)の蓄積を抑制できます。加えて、50万km走行を目安としたDPF洗浄により、性能の回復と長寿命化が可能です。さらに、定期的な点検で警告灯や排気の異常を確認し、記録を残すことで早期発見と予防につながります。 

 

運転習慣の見直し 

DPFの健全な状態を保つには、運転習慣の見直しが重要です。定期的な高速走行で排気温度を上げると自然再生が促進され、PMの蓄積を防げます。長時間のアイドリングや低回転走行は避け、適切なエンジン回転を維持しましょう。また、過積載を控え、法定積載量を守ることもDPFの保護と車両寿命の延長につながります。 

 

世界各国のDPF関連の排ガス規制動向 

DPFの装着と管理は、各国の排出ガス規制によって大きく影響を受けます。ここでは、アメリカ、日本、オーストラリア、インド、ブラジル、メキシコ、タイにおけるDPF関連の排ガス規制動向について、それぞれの特徴と現状を紹介します。 

 

アメリカ:「Phase 3」でさらに排出ガス規制を強化予定 

EPA(米国環境保護庁)は、従来の「Phase 2」(2016年策定、2019–2027年モデル対象)に続く自動車の排ガス規制の強化策として、2024年3月に「Phase 3」を最終決定しました。対象となるのは、大型トラックやバス等で、排出削減目標が車種別に明確に引き上げられています。 

2032年モデルにおけるCO2削減率として、軽量業務車両では最大60%、中型業務車両で最大40%、重量級業務車両では30%の削減が求められるなど、Phase 2に比べて最大60%もの強化となりました。 

現在、アメリカではDPFの装着は州レベルで規制されていますが、カリフォルニア州では、CARB(カリフォルニア州大気資源局)によって最も厳しい排出ガス規制を設けています。特に、2023年に施行された「Truck and Bus Regulation」(トラック・バス規則)は、ディーゼル大型車にDPFの装着と2010年以降エンジンへの更新を義務化し、PM排出を大幅に削減する強力な規制です。未装着車はDMV(車両登録機関)に登録できず、定期的な排気テスト受検が義務付けられるなど、排出対策の実効性を確保する仕組みが整っています。 

 

日本:2027年にさらなるPN規制を検討 

日本では、2016年10月から「平成28年排出ガス規制」が段階的に施行され、NOx規制値の削減目標が強化されました。排出ガスの試験方法についても、世界統一で定められた過渡試験サイクル(WHTC)へ移行し、実走行に近い環境下で測定されるようになっています。 

さらに、環境省の中央環境審議会は、第十五次答申(2024年9月)において、欧州で特殊自動車にも導入されている粒径23nm以上のPMの個数を規制する「PN規制」を、日本でも導入する方針を決定しました。これにより、定格出力が19kW以上560kW未満のディーゼル特殊自動車には、PN規制および質量を規制するPM規制の目標値の強化が2027年末までに適用される予定で、DPFの装着は事実上不可欠となっています。 

 

ブラジル:中南米初のPROCONVE P-8導入でDPFの普及が拡大 

ブラジルでは、2022年1月から重量車対象でEURO 6相当の「PROCONVE P-8」を導入しました。PROCONVE P-8では、走行中の実環境に近い条件で測定を行うオフサイクル試験方法(OCE)や、低排出ガス適合性を確保する適合性試験(ISC)が要求されています。加えて、大型ディーゼルエンジンに対してPN規制が新たに設けられ、「PROCONVE P-7」に比べて90%のPM排出量削減が求められるため、DPFの装着が必須となりました。 

ICCTによると、この規制の導入によりPM2.5の影響による早期死亡74,000人の回避など約30年間で740億ドル相当の健康便益が見込まれています。 

 

オーストラリア:ADR 80/04導入を予定 

オーストラリアでは2010年から「ADR 80/03(EURO 5相当)を導入しており、2011年からはディーゼル重量車へのDPFの装着が義務化されました。さらに2024年11月からはEURO 6相当の新たな排ガス規制となる「ADR 80/04」の導入が実現しました。 

今後、実路走行での車載式排出ガス測定システム(PEMS)の導入も検討されています。これにより、DPFの実使用環境下での性能維持と制御精度が、今後さらに重要となっていく見込みです。 

 

インド:BS6規制を急速に導入 

インドでは、2020年4月にBS6(Bharat Stage 6)」を一斉導入し、PMとPNの規制の強化等により、DPFの導入が事実上必須となりました。BS4からBS6へのジャンプ適用は、インドが世界で初めて実施したものであり、ほかの新興国にも影響を与えると期待されています。 

ICCT(国際クリーン交通委員会)によると、BS6規制の実施により、2020~2050年のあいだで約230万tのPM2.5削減、早期死亡リスクの回避は約120万人と試算されています。 

 

メキシコ:北米基準に対応した先進的DPF規制を導入 

メキシコでは2017年に改正された「NOM-044規制」により、EPA 2010またはEURO 6相当の排ガス基準が段階的に導入されました。 

USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を背景に、北米統一基準との整合性が重視されており、車両総重量3,857kg以上の重量車にはDPFの装着が事実上義務化されました。この規制により、メキシコは中進国で初めて世界最高水準の排出ガス規制を導入した国となっています。 

 

タイ:PM2.5対策として、都市部を中心にDPF義務化が進む 

タイでは2024年1月から、欧州の排ガス規制「EURO 5」を導入しました。バンコクやチェンマイなどで深刻化するPM2.5対策として、PM排出量とNOx削減が期待されています。 

タイはASEANの物流ハブとして、地域全体の環境基準整備を主導しており、国内メーカーはDPF技術の導入を本格化させています。 

 

DPFの正しい理解と管理が今後さらに重要に 

DPFは、現代のトラック運送において欠かすことのできない環境対応技術です。排出ガス中の有害なPMを大幅に削減し、排出ガス規制への適合だけでなく、社会的な信頼性向上にも寄与しています。 

その一方で、DPFの不具合は走行性能の低下や燃費悪化を招くため、日々の点検やメンテナンス、正しい運転習慣の徹底が重要です。フィルターの目詰まりやセンサー異常といった故障の兆候を早期に察知し、適切に対処することで、車両の安定稼働と運行コストの削減を実現できます。 

運送事業者にとって、DPFは単なる規制対応装置ではなく、長期的な事業継続性と社会的責任を果たすための重要な投資となっています。適切な理解と管理により、DPFの性能を最大限に活用し、持続可能な物流システムの構築に貢献することが、今後ますます重要になるでしょう。